https://www.dhm.de/lemo/bestand/objekt/filmzeitschrift-zum-ufa-tonfilm-der-kongress-tanzt-1931.html
ドイツ映画史に名を残す古典的名作『会議は踊る』(独原題:Der Kongreß tanzt)と、その有名な挿入歌『Das gibt's nur einmal/ 唯一度だけ』の歌詞(著作権切れ)和訳を通じて作品をレビューします。更には同曲が映画中で歌われている宮崎駿監督作品の『風立ちぬ』を物語の舞台でもあるドイツで見た感想も。
ドイツ映画の古典的名作『会議は踊る』の基本情報
『会議は踊る』(独原題:Der Kongreß tanzt)は、ドイツで制作され、1931年に公開されたトーキーのコメディ映画です。上映時間は85分。
「会議は踊る」は1934年(昭和9年)に日本でも公開され、「ただ一度だけ」もヒットしたそうです。
昭和9(1934)年リリアン・ハーヴェイ主演映画日本興行記(1)超絶賛『會議は踊る』と酷評『妾の弱點』 | 古いドイツ映画とともに
監督 エリック・シャレル
脚本 ノルベルト・ファルク
製作指揮 エリッヒ・ポマー
音楽 ウェルナー・リヒャルト・ハイマンフランツ・グローテ
撮影 カール・ホフマン
言語 ドイツ語、英語、フランス語
主な出演者
- リリアン・ハーヴェイ (クリスタル役)
- ヴィリー・フリッチ (アレクサンドル1世役)
会議は踊るのあらすじ
物語の舞台はナポレオン・ボナパル失脚後のオーストラリアの首都・ウィーン。
ウィーンには各国首脳が集まりウィーン会議が催されています。
題名は、オーストリアのリーニュ侯爵シャルル・ジョセフの言葉といわれる「会議は踊る、されど進まず」(Le congrès danse beaucoup, mais il ne marche pas.)から借りている。会議は踊る - Wikipedia
ウィーンのの手袋屋さんで売り子をしている町娘のクリスタル(リリアン・ハーヴェイ)はひょんなことからロシア皇帝アレクサンドル1世に見初められ、淡い夢のような逢瀬を重ねるのでした。
挿入歌「Das gibt's nur einmal/ ただ一度だけ」(映画版)の歌詞と拙訳
作詞:R.Gilbert-W.R.Heymann (14 February 1896 – 30 May 1961)
作曲:R.Gilbert-W.R.Heymann
Wo ich gehe, wo ich stehe, lachen die Menschen mir zu.
Heut' werden alle Märchen wahr.
Heut wird mir eines klar:
今日はあることが明らかになる:
Das gibt's nur einmal, das kommt nicht wieder, das ist zu schön um wahr zu sein.
So wie ein Wunder fällt auf uns nieder vom Paradies ein gold'ner Schein.
Das kann das Leben nur einmal geben, vielleicht ist's morgen schon vorbei.
Das kann das Leben nur einmal geben, denn jeder Frühling hat nur einen Mai.
All die lieben Vöglein üben selig die Glücksmelodie.
Heut' kommt das Glück von Haus zu Haus.
Komm, such dir etwas aus!
So wie ein Wunder fällt auf uns nieder vom Paradies ein gold'ner Schein.
Das kann das Leben nur einmal geben, vielleicht ist's morgen schon vorbei.
Das kann das Leben nur einmal geben, denn jeder Frühling hat nur einen Mai.
Heut' blüh' ich nur für dich!
Das gibt's nur einmal, das kommt nicht wieder, das ist zu schön um wahr zu sein.
唯一度だけ、またとない、本当だとしたら素敵すぎる
So wie ein Wunder fällt auf uns nieder vom Paradies ein gold'ner Schein.
奇跡のように、私たちに黄金の輝きがパラダイスから降り注ぐ
Das gibt's nur einmal, das kommt nicht wieder, das ist vielleicht nur Träumerei.
唯一度だけ、またとない、もしかしたらこれは夢なのかもしれない
Das kann das Leben nur einmal geben, vielleicht ist's morgen schon vorbei.
人生唯一度だけ、明日にはもうないかもしれないから
Das kann das Leben nur einmal geben, denn jeder Frühling hat nur einen Mai.
人生唯一度だけ、春に五月は一度だけだから
Das gibt's nur einmal (レコード版)の拙訳
Das gibt's nur einmal (ただ一度だけ)は、映画の挿入歌とは一部異なる歌詞でレコード版も存在します。
Jedes Pärchen glaubt das Märchen: Liebe hat ewig bestand.
Reich mir zum Abschied die Hand!
Dann ist der Himmel nicht mehr blau.
Dann weißt du's ganz genau:
そして、あなたはとてもはっきりと知っている:
Das gibt's nur einmal, das kommt nicht wieder, das ist zu schön um wahr zu sein.
So wie ein Wunder fällt auf uns nieder vom Paradies ein gold'ner Schein.
Das kann das Leben nur einmal geben, vielleicht ist's morgen schon vorbei.
Das kann das Leben nur einmal geben, denn jeder Frühling hat nur einen Mai.
映画も冒頭の挿入歌では「お熱いのがお好き」的な、単なるラブストーリーかと思いきや、映画終盤やレコード版では越えられない、確固たる身分階級・社会を飲み込んだ上での「唯一度だけ」の恋を歌うものです(参考:ドイツ文学遊歩)。
『会議は踊る』の感想
トーキー映画ですが、時代が古すぎて話に集中できない、ということもなく面白かったです。「ただ一度だけ」の長回しシーンがあまりに有名なので、ミュージカル映画かと思いきや、テンポよくずっと笑わせるコメディ映画でした。
入れ替わりシーンの冷や冷や感は、ギャングから女装で逃れ、マリリン・モンロー演じるシュガーちゃん(↓中央)に男であることをばれないようにする主人公の感じとも似ていますね。
最後は身分差の恋なのであっけないですが、それすら爽快に思わせる御伽噺のような情緒があります。そしてやはりクリスタル役のリリアンが歌うDas gibt's nur einmalという歌は素晴らしいです。

宮崎駿監督作品『風立ちぬ』の基本情報
ジオジブリが制作した、2013年に公開された長編アニメーション映画です。上映時間は126分。副題は「生きねば」。実在した、戦闘機「ゼロ戦」の開発者であり堀越二郎をモデルに、作家の堀辰雄の小説『風立ちぬ』からの要素も盛り込まれています。宮崎駿監督は当初は本作品を引退作品としていましたが、後に撤回しました。本作品は主題歌にユーミンこと松任谷由実の初期の名曲、荒井由実の『ひこうき雲』を採用したことや 、主人公の声優にエヴァンゲリオンの監督で有名な庵野秀明を起用したことでも話題になりました。
監督 宮崎駿
脚本 宮崎駿
製作 鈴木敏夫
原作 宮崎駿/堀辰雄
音楽 久石譲
制作会社 スタジオジブリ
言語 日本語
映画『風立ちぬ』をドイツの映画館で見た感想
ドイツでもWie der Wind sich hebtというタイトルで全土で上映されました。
Wie der Wind sich hebt (Special Edition) [DVD]
初めてドイツ版ポスター(二郎が菜緒子の顔を覗き込むようにキスしている場面、↑のコマを進めた絵↓北米版二つ目と同じ)を見た時はドイツ人、ちょっと色ボケし過ぎでは?と思いましたが、よくよく振り返れば映画の内容を端的によく表している良いポスターだと思います。
ちなみにアメリカ版。
風立ちぬ スタジオジブリ 英語版 / The Wind Rises 宮崎駿 [DVD] [Import] [PAL, 再生環境をご確認ください]
ドイツの映画館では話題のハリウッド映画と同等の扱いでは決してありませんが、それでもドイツ全土の映画館で上映されていました。トーマス・マンのふるさと、リューベックでは町の規模・人口からして少し長すぎる期間上映していました。
私はドイツの映画館で日本語音声・ドイツ語字幕で鑑賞しました。ポスターの効果か、私以外の観客はインテリ風のアベックばっかりでした。あとは日本文化に興味ありそうだったり、アニメ動画に抵抗の無さそうな若者たちが大半だったと思います。
映画館で映画を見ると、家でパソコンやDVDプレーヤーで見るのと全く違う、知らない、居合わせた他の人の反応と一緒に見られるのが面白いです。
ドイツ人というのは不思議なものでアジの骨のシーンとか「え、
それと「風立ちぬ」はドイツの科学技術や文化が世界を圧巻していた時代の話であり、ドイツも短いながら話の舞台であるので、特にドイツのデッサウシーンの始まりの、ドイツ人全員が全身から醸し出す「
ドイツ人、
日本だとファミリー層は特に、宮崎駿作品の閾値を超えてるのでこれから何を見せられるのかわからなくて冷や冷やして「ハ、ハヤオ!」と緊張が走りそうなものを、ドイツではそんなことありませんでした。
謎の外国人が二郎とテラスでドイツのタバコふかしながらドイツの
映画『風立ちぬ』と『唯一度だけ』
映画「風立ちぬ」の中でも「唯一度だけ/ Das gibt's nur einmal」は歌われています。「会議は踊る」のように、ヒロインの独唱というスタイルでは無く、謎の外国人の弾くピアノに合わせて、レストランにいる人々が一同に『ただ一度だけ』をドイツ語で合唱します。映画「会議は踊る」は当時の日本でも歌と共に流行り、「風立ちぬ」の物語の中の高級避暑地には当時の富裕層&インテリ層が集まるとはいえ、そんなみんなで歌えるものなのかな、と疑問に思いましたが、美しいシーンでありました。
当時のインテリ層の教養の高さと言えば、主人公とヒロインが始めて会うシーンで、
Le vent se lève, il faut tenter de vivre (風立ちぬ 生きねば)
フランス語、なんて読むんですかね。いや、当時のインテリ層、凄いです。私はポカーン( ゚д゚)としちゃいますよ。
こんな素敵な作品を作った宮崎駿はやはり天才だと思いました。
そして、『Das gibt's nur einmal/ 唯一度だけ』は名曲ですね。