2018年に話題になった書籍、借金玉さんの『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』と岩本友規さんの『発達障害の自分の育て方』を、ADHD傾向のあるグレーゾーン当事者の視点からレポートします。
両方ともKindle Unlimitedの読み放題対象です。
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借金玉さんの『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』は現在Kindle Unlimitedの読み放題対象作品なので、Unlimitedに登録すれば無料で読めます。
借金玉と著書『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』について
本を読むきっかけ
私が借金玉さんを知り、この本を知ったのはこちらの東洋経済での勝間和代さんとの対談を読んだのが契機です。
勝間和代さんも借金玉さんも両者ともにADHDの持ち主で、普通の人、即ち定型発達者ではおよそ有り得ないけどADHDには「あるある」話を意気投合しながら面白く語るので大笑いして印象に残っていました。
ネットで調べるとTwitter(借金玉 (@syakkin_dama) | Twitter)をされているだけでなく、なんとはてなブロガーさんでした!びっくり。
ブログは大反響で書籍化され、『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』は出版から一か月で二万部を超えるベストセラーになりました。
本書は読売新聞を始めとする各種メディアでも取り上げられ、著者の借金玉さんは各種メディアでの対談・インタビュー記事にも度々登場しています。
借金玉さんについて
借金玉、はもちろんペンネームです。借金玉さんは ADHD と診断され、かつ友人からは ASD の併発だろうと言われているそう。
借金玉さんは学童期から不登校になったりするも、大学は早稲田大学を卒業され、金融関係のホワイト企業に就職します。
しかし2年ほどで離職し、起業して一時上手く行くも鬱を発症し、一年間の療養を経て営業マンに就職されました。
その傍ら執筆活動を開始し、2018年5月には角川書店から『発達障害の僕が「食える人」に変わったすごい仕事術』を出版して2万部を超える話題作に。
現在もプレイボーイ誌に連載をされていたり、積極的に執筆活動をされています。
最近は春菊パスタで話題になってました。
本の内容
自分は「大人の発達障害」なのでは、と悩む人が多いなか、その解決策を具体的に示した本は少ない―。そんな悩みを抱えていた著者が、試行錯誤の末に身につけたライフハックを詰め込んだのが本書です。「普通」には生きられなくても、食べていくことはできるし、生きていくこともできる。仕事や人間関係がうまくいかない全ての人のための「日本一意識が低い」自己啓発書。
●第1章 自分を変えるな、「道具」に頼れ【仕事】
「かばんぶっこみ」こそが最強の戦略である
「バインダーもりもり作戦」で書類の神隠しを防ぐ さらば、片づけ地獄!
「本質ボックス」と「神棚ハック」 ほか
●第2章 全ての会社は「部族」である【人間関係】
人間関係の価値基盤「見えない通貨」
部族の祭礼「飲み会」は喋らず乗り切れ 共感とは「苦労」と「努力」に理解を示してあげること ほか
●第3章 朝起きられず、夜寝られないあなたへ【生活習慣】
●第4章 厄介な友、「薬・酒」とどう付き合うか【依存】
●第5章 僕が「うつの底」から抜け出した方法【生存】
内容紹介から一部抜粋
詳しい目次はこちらに記載されています。
内容紹介には 『「日本一意識が低い」自己啓発書』と書かれていますが、定型発達者が「当たり前に」できることが困難だったりできなかったりする発達障害者にとっては、等身大の書だと思います。
この本では、発達障害者が社会人になってまともに、「普通に」生きて食っていくために必要なライフハックを多数紹介しています。
後半は薬の服用や命を守るためのライフハックも。
借金玉さんは人の名前と顔を覚えるのは苦手でも概念を考え出すのは得意だそうで(これが名刺ライフハックに繋がる)、本書でもその能力はいかん無く発揮されています。
「神隠し(ものが消えること)」「神棚(絶対に無くしてはならないものの置き場)」「聖別(重要度に応じた分類)」「どんぐり(スペア)」「部族」「儀式(懇親会・飲み会)」と言った独特の言い回しや比喩はユーモラスでかつ的を射ており、軽快な語り口で楽しく読めます。
読んでみての感想
まえがき
本書はまず、借金玉さんの赤裸々なこれまでの人生に障害が及ぼした 経験のモノローグから始まります。
借金玉さんは、子供の頃からADHD にありがちなスロースターター、それでも 締め切り直前の猛烈な集中力(=過集中)による追い上げで挽回し、大学までは何とかなってきてしまいました。
しかし会社勤めはそうは行かず、土壇場の馬力ではなく常に安定した出力を求められます。
また、職場では自由に人の群れを移動できず、人間関係も固定化されます。
そんな環境で、人生でも最悪のタイミング、就業してから借金玉さんは発達障害と向き合う事になりました。
いい大学も出て、就業まで漕ぎつけたなら別に良かったのでは?と思われるかもしれませんが、整理整頓や身だしなみ、そして何よりも大切な処世術などは「社会人として」生きていく上で必要な技術なので、やはり幼少期からトレーニングを積んでおきたかったと思う部分はあります。
とは言え、親にとっても子供は宇宙人みたいなものだから扱いにくかっただろうとは思いますが。
学生時代を過集中や他の高い能力で乗り切り、社会人になってから壁にぶち当たる人は借金玉さんに限らず多いと思います。
かく言う私も我が身を振り返ると重なる部分が大きいです。
時に共感し大笑いし、時には恥ずかしいような辛いような悲しいような、そんな気分になりました。
さらに借金玉さんは 「『自分はスティーブ・ジョブスではない』と気づくのに時間がかかった」と書いています。
確かに世の中には 発達障害の児童を持った親御さんを励ますためか、 偉人伝を引用してADHD 発達障害を やたらとポジティブに捉えようとする動きがあります。
トーマス・エジソンやアインシュタイン、 スティーブ・ジョブス、ビル・ゲイツ。
その他診断名のついていない過去の偉人たちまで発達障害だとレッテル貼りをしては、障害は個性と言わんばかりに煽り立てています。
しかし、当の本人からすればそういう励ましは多少は嬉しい反面、ADHDが生きやすい、才能を伸ばしやすい環境や特性を受け入れる社会を用意してくれたでもなく、過剰な期待を押し付けられるのは負担でしかない気もします。
つまり、発達障害者の才能は欲しくてもその他めんどくさい特性は要らないという美味しいどこ取りというか。
この傾向は最近読んだ児童向け書籍でも顕著だと思いました。
発達障害は大多数の定型発達者に最適化された現代社会においては明らかに障害な訳で、過去の偉人や個性教で誤魔化さずにできるだけ早期に対処できるライフハックを身につけたり、訓練していく必要があると思うのです。
そういう面でも、「障害は個性。神様からのプレゼント。」教の人達は正直言って自制して欲しいと思います。将来苦労するのは子供なんですから。
第1章から第5章まで、本書の目玉とも言える「ライフハック」が紹介されています。
第1章 自分を変えるな、「道具」に頼れ【仕事】
借金玉さんのライフハックで発達障害の本質をついていると思うのが、「意識」ではなく「環境」を徹底的に変えよ、と説いている点です。
発達障害者は定型発達者には信じられないような「やらかし」を度々しでかします。
その度に心の底から悔いて、神に誓って同じ過ちを繰り返さないようにと猛省しているのです。
しかし、またやらかしてしまい、自己嫌悪に陥ます。子供だと親や先生に怒られるので、自己評価が異様に低い人間に育つこともあります。
借金玉さんは説きます、自責の念も、心からの懺悔も決意もなんの解決策にはならないと。
実際そうでした。決心してできるなら、最初からそんな失敗はしていないのです。
そこで用いるべきは「道具」に頼るというライフハックです。
ライフハック編ではこれでもかってくらいの不格好でド直球なライフハックに笑います。
ライフハックの一つはリスがドングリを地中に埋めておくのになぞらえて、「ドングリはたくさん埋めておけ」。
ハンコ、ハンカチ、ガジェット。なんでも同じもの・似たものを持って色んなところに埋めておけ、というもの。
これは定型発達者には「なんのこと?」と思うのでしょうが、本当にしょっちゅうものが消えてなくなる、まさに「神隠し」に遭ってる人々にはこれは紛れもなく重要なライフハックです。
とは言え、複数同じものを揃えるのは初期投資もかかりますし、そこまでやる価値があるのか疑問ですよね。
アメリカでは商品の販売サイズが日本のと比べ、とにかく桁違いに大きいのが特徴です。時々やりすぎだろというにも出会います。例えばこれ、靴下20足(!!!)パック。しかも同じ種類のみ🥴専門店ではなく普通の店で売ってるのがやばい。20足も同じのいる?一家みんなで履くのかな?価格は800円ほど pic.twitter.com/PkG93H9h6t
— 大須賀 覚 / Satoru Osuka (@SatoruO) 2018年9月17日
でも、価値はあるんです。☝のような、「まとめ売り」や、「2つ買ったら3個目を無料でプレゼント!」なる無茶苦茶な売り方が欧米では日本に比べてよく見られます。
これ、あると本当に便利で快適なのです。
何よりも人に迷惑をかけたり、自責の念が無くなります。
ライフハックの章に関しては、私も借金玉さんと歳が近く、長く生きていただけあって似たライフハックは自己流に開発していました。
大学1年生などもっと早い時点で読めていればなあと思いました。
第1章には力技だけど「確実に効く」ライフハックが目白押しです。
第2章 全ての会社は「部族」である【人間関係】
この本の一番の見所は何と言っても人間関係の第二章ではないでしょうか。
この章は発達障害者だけでなく、 いろんな人が読んでも共感できる内容だと思います。
コミュニケーション能力の高い人や定型発達者には自然とこなしているやり取りの裏に隠された「概念」を、借金玉さんは独特の視点で言葉にしてその重要性を説きます。
一つは、人間関係は「見えない通貨」のやり取りで成り立っている、ということ。
この点は借金玉さんのブログでも詳しく書いておられます。
「通貨」なので受け取ったらきちんとお返ししなければ相手は怒るとか当然ですよね、ただし人間関係の通貨は「見えない通貨」なのですが。
他にも、職場とは「部族」であり、職場の飲み会は「部族」の祭礼なのでは喋らず乗り切れ、部族独特の伝統やしきたりに直面しても「こんな茶番、馬鹿馬鹿しい」と「茶番センサー」を発動しないで茶番にこそ本気になって部族の一員であることを示す。
共感とは「苦労」と「努力」に理解を示してあげることなので、本当は理解できるわけないけど、理解をすることの百倍、理解を「示す」ことで共感を表現し、味方になることが大事、などなど。
これらの考えは人間関係をやっていく上で非常に大事だと思いました。
第3~5章
第3~5章 では、【生活習慣】や薬物やアルコールへの【依存】、そして発達障害の二次障害で重度の鬱を経験した【生存】についても詳しく書かれています。
私はこの本が話題になった時に、楽天で(クーポンで安かったので)購入しました。
現在はAmazon の Kindle Unlimited でも無料で読めます。気になる方は一度読まれるといいでしょう。
ライフハックは頭ではわかっていても実践しなければ何も意味がありません。
定期的に読み返し、実践を心がけ、社会の荒波を乗り切っていきたいと思います。
岩本友規 (著) 発達障害の自分の育て方
同じくADHD本でとても参考になったのは、岩本友規さんの『発達障害の自分の育て方』です。こちらもKindle Unlimitedの読み放題対象です。
岩本さんは借金玉さんと同様にADHDの当事者であり、かつはてなブロガーさんでもあります。
借金玉さんの著書が ライフハック と言うとおり、自分の意識ではなく 環境や道具に頼って ADHD の人が食えるようにしていこうという趣旨なのに対し、 岩本さんの著者はどちらかと言うとより認知行動療法 的なアプローチを取っています。
認知行動療法的なアプローチは、HSP(敏感な人、ハイリーセンシティブパーソン)や社交不安障害の人達への治療にも用いられる手法です。
極端にネガティブな認知の歪みや思い込みを直して、他者と適切な境界を引いて適切な距離感を保ちます。
HSPも発達障害者も、自分の世界と周囲の世界の境界が曖昧になりがちです。
この2つをはっきりと区別し、自立できるようになることこそが発達障害者の生きづらさを解消する鍵になると岩本さんは言います。
この本には発達障害を抱えながら生きる人達や、発達障害ではないもののなんらかの生きづらさを感じている人達が自分の適性にあった働き方に辿り着き、ストレスを適切に処理し、自立して生きていくための知恵が詰まっています。
借金玉さんも岩本さんもたくましいです。
借金玉さんが「ちょっとずつでも発達している」と形容されていたように、自分で自分をゆっくりでも育てていけたらいいなと思いました。
アンリミテッドだから!普段読まない本も気軽に読めます✌
良い本に出会えたことに感謝です!