
日本で教育を受けた日本人ポスドクや研究者や大学院生が、英語圏で英語だと思っていた学術用語が通じなかったり、発音がピンと来なかったりするという話はよく聞きます。
早い話、それ、だいたいドイツ語なんですわ。
日本語に定着したドイツ語由来の生化学・化学系系の学術用語についてまとめました。
- ドイツ語読み vs 英語読み
- ドイツ人は英語読みとほとんど間違えない
- なんで日本語にドイツ語がたくさん入ったか?
- ドイツ語由来の学術用語は日本語と日本の歴史の一部
- 提言:カタカナ英語にするのではなくアルファベット綴りとPhoneticsを覚えよう
- 結論
ドイツ語読み vs 英語読み
生化学・化学系の日本語用語とドイツ語と英語発音のカナ読みをまとめてみました。*1
ピンセット(蘭) pincet(蘭) ピンツェテ(独) Pinzette(独) |
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ご覧の通り、ほとんど日本語=ドイツ語です。
アルファベットがわかればドイツ語と英語両方わかる
ドイツ語は不規則な英語の読み方と違い、表記に忠実に発音します。
別に「ドイツ語の発音の規則を覚えましょう!」というわけではなく、何が言いたいかというと、日本語のカタカナ学術語は明治以降に直輸入された由緒正しいドイツ語が由来であり、劣化カタカナ英語などでは決してないわけです。
ちなみに現代ドイツ人にもちゃんと通じます(だってドイツ語だから)。
機会があれば試してみてください(笑)。
ドイツ人は英語読みとほとんど間違えない
私統計では、ドイツ人が英語のプレゼンテーションで学術用語をドイツ語読みすることはほぼありません。
仮にあったとしても、子音の感じや文脈でなんとなくわかるので、そんなに気になりません。
加えて、ドイツにはフランス人という何語でもフランス語風に喋る人種がたくさんいるので、その辺は英語圏のネイティブオーディエンスに比べて寛容な面もあるでしょう。
ちなみにフランス人の多くは文末のeをなんでも伸ばしてuに読みます。moleculeはモレキュール。
そんな用心深いドイツ人でもかなりの高確率で、英語のプレゼンでデュートリウム(deutrium)をドイトリウムと読みます。
このdeu(ドイ)はドイツ(Deutschlandドイチラント!)のドイ、ですからね。
なんで日本語にドイツ語がたくさん入ったか?

1861年1月24日に日本とプロイセン(当時)の間で修好通商条約が締結されました。
以後、明治時代には多くのことを日本はドイツから学びました。
東大のキャンパスの胸像・銅像一つとってもドイツ人やドイツ留学経験者の多いこと、多いこと。
博士の肖像(東京大学のキャンパス内の銅像・胸像の人物の略歴などが見られます)。
当時のヨーロッパは凄い才能が続々と誕生していた時代でもありました。
In the Solvay Conference in 1927, 17 of the 29 attendees (~60%) were or became Nobel Prize winners. Marie Curie won 2 Nobel Prizes. pic.twitter.com/DJ6vC1HfiM
— Fermat's Library (@fermatslibrary) 2017年8月7日
日本人もドイツ人も国民レベルでは周知されていませんが、現場レベルでは今日もなお、日独は素晴らしいパートナーであり続けています。
ドイツ語由来の学術用語は日本語と日本の歴史の一部
西洋の最先端の知識をドイツ人教師達は極東の日本にまでやって来て伝え、日本人の学者達もまたドイツに留学してドイツ語を日本語にし、極東のアジアでサイエンスを始め、発展させました。
日本人のノーベル賞受賞者がよく、「日本人は母語の日本語で科学を学べるのは強み」と言っていますが、そんな環境を創り上げた先人達の苦労を思えば感謝しきれません。
また、インドネシア人や中国人の友人たちの指導教官は日本で博士号を取っていたり、アジアのサイエンス発展にも日本の戦後の科学(今は知りませんが)は少なからず貢献しました。
日本語に残る、ドイツ語由来のカタカナ学術用語はそんな日本のドイツとの歴史や、アジアのサイエンス発展の功労者としての歴史を反映するものなので、残して欲しいな、と思います。
提言:カタカナ英語にするのではなくアルファベット綴りとPhoneticsを覚えよう
カタカナ英語の弊害
不便だからドイツ語由来の日本語の学術用語を、カタカナ英語に置き換えるべきだ、という主張がありますが、これは良くない考えだと思います。
第一に、カタカナ英語に慣れるとそれで通じると思い込んで、今よりももっと日本人の英語力の低下が心配されます。
アメリカ人の英語講師曰く、発音矯正はカタカナ英語として日本語化した単語ほど癖が出やすく矯正が難しいそうです。
第二に、ドイツとの絆とや先人達の苦労の歴史とサイエンスをアジアで興した国としての品格を捨て去ってしまうからです。
アメリカとかは「歴史」はあまり気にしないかもしれませんが、ヨーロッパはそういうのうるさい人もいます。
解決策:アルファベット綴りとフォネティクス
カタカナ英語を導入するよりももっといい方法があります。
それは、専門用語はアルファベットも一緒に覚え、大学生以上は英語のフォネティクスPhoneticsを学ぶことです。
これはドイツ人が英語を話すときに採用している方法でもあります。
つまりは言語に応じてアルファベットと音を対応させることを学ぶのです。
アルファベット綴りを一緒に覚えることで、英語の論文や学術書もすんなり読み始められます。
英語のフォネティックスを学ぶことで、聞き取りや発音が格段に向上します。
フォネティックスを学ぶとは実用向けに簡単に言うと、各アルファベットの音を自分の舌で再現できるようにし、さらにアルファベットが並んだ時にどういう音になるかを徹底的に自分の耳と舌に覚えこませる作業です。
ドイツ語由来の日本語、即ちドイツ語読みが通じなかった、というのは、そもそも単語一つだけの問題では無く、全体的な英語力の不足しているのも一因だと思います。
なぜなら、上述の通りヨーロッパ人は各々好き放題に自国風に発音してるけど、言葉を尽くして文脈を作っているのでちゃんと通じるのです。
アルファベット綴りとドイツ語由来の日本語となった専門用語を同時に覚えることで、英語発音とアルファベット綴りの文字と規則性に嫌でも関心が行くので、そこがまたフォネティクスの良い入門だったり、フォネティックスを学ぶ良い動機づけになることを期待しています。
結論
- カタカナ学術用語は由緒正しいドイツ語由来が多い
- ドイツ語由来の学術用語は箔
- カタカナ英語は百害あって一利なしなので、アルファベット綴りとフォネティクスを学ぼう
*1:
カナ表記についての注
日本語表記はWikipediaで、英語発音はアメリカ発音(rを強調してoをaみたいに読む系)とイギリス発音(表記により近い系)で色々ありますが、電子辞書やTwitterで確認できるメジャーなものを採用しています。ドイツ語もできるだけドイツ語辞書から拾いました。