
偉大な作曲家を輩出し、今日も多くの町が楽団を持つクラシック大国・ドイツ。
ドイツではクラシックやオペラは決して敷居の高いものではありません。
これまでドイツで20回以上オペラを観劇した経験に基づき、ドイツの夜でオペラを楽しむ際のガイドをまとめました。
また後半にはハノーファー国立歌劇場の様子も写真付きでレポートします。
そもそもオペラって何だっけ?
オペラは16世紀の終盤に成立されたとされる演劇と音楽によって構成される舞台芸術で、オペラ歌手が演技をしながらオーケストラを従えて歌い、物語が進行します。
同じ舞台芸術の歌舞伎やミュージカル、バレエと比べると大まかに以下のようになります(独自研究、諸所に例外あり)。
種類 | 音楽 | 台詞 | 歌 | 踊り |
---|---|---|---|---|
オペラ |
舞台下 |
有 |
有 (役者が歌う) |
無 |
歌舞伎 |
舞台上 舞台袖 |
有 (メイン) |
有 (役者は歌わない) |
基本有 |
ミュージカル |
舞台下 録音 |
有 |
有 (役者が歌う) |
有り |
バレエ | 舞台下 | 無 | 無 |
有り (メイン) |
オーケストラ |
舞台上 (メイン) |
無 | 基本無 | 無 |
オペラ歌手は単に突っ立って歌うだけじゃなくてメイクや衣装、振り付けや台詞、演技もこなす古典的なミュージカルといったところでしょうか。
日本で一番近い舞台劇の位置づけは歌舞伎だと思いますが、歌舞伎と違って役者が踊ることは基本的にはありません。
有名どころの演目
オペラには数多くの名作・佳作があります。有名どころはイタリアやドイツの巨匠を選べば外れはないでしょう。
以下は【超】有名どころ。
W.A.モーツアルト「ドン・ジョバンニ」「フィガロの結婚」「魔笛」
ベートーヴェン「フィデリオ」
ヨハン・シュトラウス「こうもり」
R.ワーグナー「タンホイザー」「ローエングリーン」
リヒャルト・シュトラウス「サロメ」「ばら騎士」
ビゼー「カルメン」
プッチーニ「トスカ」「蝶々夫人」「トゥーランドット」
ヴェルディ「リゴレット」「アイーダ」「椿姫」
ロッシーニ「セビリアの理髪師」
ドイツでは演出によって(特に現代っぽいアレンジでは)はほぼ裸だったり男女が絡むのはよくあることなので、子供同伴の場合は演出が古典的なもの(衣装が現代的・ユニクロっぽくない)を選ぶようにするか、バレエやオーケストラが良いでしょう。
チケットの取り方
一番簡単なのは、滞在予定の町やその近くの町からオペラハウスを探し、見つけたオペラハウスのホームページから好きな演目を選ぶ方法です。
オペラハウスの探し方
ドイツの殆どの大都市や州都にはオペラハウスがあります。
グーグルなどで「街の名前 Oper」と入力して検索すると、オペラハウスのある街なら上位に公式ホームページが出てきます。多くは英語・ドイツ語の二か国語対応です。
演目と日付を確認したら、当日直接劇場のKasse(レジ・販売所)でチケットを購入するか、または安心のためにネットで事前購入・予約をします。
ネット予約と当日券、座席指定
だいたいどこのオペラハウスも同じ流れでチケットをオンライン購入することができます。
まず、演目と日時を選択します。
ホームページに行くと写真や演目のあらすじや出演者や日時などの詳細情報が得られます。
https://www.staatstheater-hannover.de/
写真は「魔笛(Die Zauberflöte)」を選択。
つぎに、座席を指定します。
歌舞伎や映画館*1と同様、座席ごとに値段が異なっています。
だいたいどこのオペラハウスも⇩こんな感じの画面です。
https://www.staatstheater-hannover.de/
座席表の色によって値段が異なります。灰色の席は売り切れの意味。
障害者や学生は割引が効くことが多いです。選択した場合は当日その証明書を忘れないようにしましょう。
最後に、支払情報とチケットの受け取り方法を選択して、決済します。
クレジットカードまたは銀行からの引き落とし(EC)、銀行振り込みのいずれかを選択し、情報を入力します。
https://www.staatstheater-hannover.de/
チケットの配送の仕方は三通りあります。
①オペラハウスにての受け取り(Abholung、無料)
②指定住所への郵送(3.50ユーロの追加料金あり)
③電子チケット(無料)
いずれかを選択し、決済すると注文完了です。
登録したメールアドレスに確認メールと、③の電子チケットを選択した場合はPDFの電子チケットが送られてきます。


チケットには日時や場所、演目や座席、注意事項など必要な情報が全て記載されています。
2. Rang Seite links:二階の(舞台に向かって)左側
Reihe 2:二列目
Platz 115 :席のシート番号115
当日まで
ごくまれに、歌手の調子が悪い場合があり、上演のキャンセルや歌手交替などによりチケットの払い戻しや日にち振替の連絡がメールもしくは電話であります(私は一度だけ経験あり)。
よってメールは少しだけ気にしておいた方がいいでしょう。
メールに気付いたのが当日だったり、または完全にこちら都合の場合でも、電話やメールをすると日にちを振り替えてくれたりするので(基本的にオペラハウスは神対応)、遠慮せず礼儀正しく連絡・問い合わせしましょう。
これはイタリア人からのアドバイスなのですが、オペラは特に、あらかじめ大まかなあらすじを頭に入れておくと話の内容がすんなりと頭に入って集中して舞台を楽しむことができます。
Wikipediaとかテレビ局のもので構わないので、簡単なあらすじを電車の中などで少しだけ読んで予習しておきましょう。
当日
服装・ドレスコード
綺麗な身なりの劇場スタッフや他の観客に失礼が無ければ何でもいいと考えて問題無いでしょう。
女性はイブニングドレス、男性は燕尾服でなければ失礼、なんてことはありません。
またドレスコードは劇場や席、演目にもよります。
劇場が歴史ある建物だからといってドレスコードが厳しいく新しければ緩いということもありません。
例としてベルリンはカジュアルOKな雰囲気でしたが新しい建物のボンはドレスやスーツの人が目立ちました。
二階や三階席ならシンプルなモノトーン系なら女性でもパンツスタイルで問題ありません。
一階でもシンプルなワンピースで大丈夫な場所がほとんどでです。
男性は襟のついたシャツでベルトにINし、ジャケットを着用していれば破れていないブルージーンズもよく見かけます。
ただしプリントTシャツやヒップホップ系、ジャージやダメージドジーンズはNGだと思います。
冬場のコートはどのみちクロークに預けるので、遠慮せずにしっかりと防寒対策をしていきましょう。
持ち物
チケットは忘れないようにしましょう。
たとえ忘れても携帯で予約確認メールを見せれば再発行してもらえると思います。
また学生割引や障碍者割引でチケットを購入した場合はその身分証明書を忘れないように。
あると便利なのはオペラグラスまたは双眼鏡です。
これがあれば二階席や三階席でも細部まで衣装や役者の表情などを楽しむことができます。
私が使っているのは電気屋さんで購入した双眼鏡です。軽くて丈夫、ピント調整も簡単で気に入っています。


観劇は喉が渇くので、休憩時間に飲む飲み物があるとなお良いでしょう。
誰かと一緒に来た時はバーで飲み物を買って飲むのがいいけど、そうでない場合はスーパーなどで2~3ユーロで売っている200ml弱の白ワインまたはゼクトの小瓶をチビチビ飲むと最高にいい気分になります。
休憩時間は時間内に戻れば外に出ても大丈夫です。
お酒じゃなくてもミネラルウォーターでもいいので、飲み物はあるといいと思います。
荷物やコート・ロングブーツなど
冬場のコートや大きな荷物は席に行く前にクロークで預かってもらいます。
劇場の椅子は近いですから他の人に当たったりしないように遠慮なく預けましょう。だいたい荷物受け取り時に交換する番号札をもらいます。
上演中
上演中は携帯電話は音もバイブも光も出ないようにしておきましょう。
他の観客はもちろん、歌手の集中力を削いでしまします。
原則として遅刻したらその幕を観劇するのはできないと思った方がいいです。ミュージカルとかよりもその辺は厳しめです。
拍手はオペラ歌手が一曲歌い終わったタイミングでします。歌舞伎のような屋号呼びはありません。
字幕・言語
イタリア語オペラはドイツ語字幕が大きい劇場を中心として付くことが多いですが、魔笛のようなドイツ語オペラは字幕が付かない場合が殆どです。
英語字幕はドイツの劇場では見たことがありません。
字幕の有無は予約時に確認しておきましょう。
イタリア人曰く、オペラのイタリア語は古くてよくわからない(けど原則字幕なし)そうなのであまり細かくは気にしないでもいいのかも?
休憩時間
お酒を飲んで社交したり、お手洗いを済ませます。
女性用のお化粧室は万国共通で、非常に混みあいます。
オペラのあらすじを読んだり楽器を近くに見学に行ったり散策、値段の高い席からの見え方を見たりすると30分休憩はあっという間です。
後半~終演
後半開始の合図のブザーが鳴り、照明が落ちる前に席に着きます。
帰りの電車に乗り遅れた!とならないように上演時間は予めチェックして、電車を逃さないように気を付けましょう。
電車の都合で最後まで見られない場合は予め通路側の空席に後半は座っておくか、交換してもらうなどして途中で抜ける準備をするといいです。
間違っても狭い椅子の間を他の観客の前を視野を遮りながら抜けて外に出るような真似はしないように。
ツーガーベ!(Zugabe!)と叫んでる人がいたらそれはアンコールの意味です。
帰宅
帰りの電車は混むものと心得て、早め早めに動きましょう。
ベルリンのオペラハウス近くの地下鉄などは終演後は激込みでした。
旅のコツとして、予算が許すならできるだけオペラハウスから徒歩圏内で旅の宿を取るとよいかもしれません。
自動的にオペラハウスの周辺は治安も良い場合が多いです。
オペラの余韻に浸りながら歩く夜道の美しいことといったら。
でも決して気を抜かず、帰るまでが遠足、を心がけましょう。
実録:北ドイツの州都・ハノーファーでオペラ「魔笛」を観てきたよ!
ハノーファー国立オペラハウス(Staatsoper Hannover)は地図の通り、駅から一本道で徒歩五分といった好立地です。
夕陽を浴びる ニーダザクセン州の歌劇場。去年ここで見た「ドン・ジョヴァンニ」が良かったです。
オペラハウスにはEU旗がはためきます。国旗じゃないのはちょっと珍しい?
宗教改革記念日(Reformationstag)のお祝いかオペラ座の前には臨時の屋台が立ち並びます。
酔っ払いも走り回る子供もいなくて大人な空間です。さすがオペラ座前。
ちょっと早く着きすぎたので時間を潰す。
ドイツで出稼ぎをするペッパー君。
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— Berlin Science Week (@BerlinSciWeek) 2018年10月29日
オペラ座の周りのレストランでは多くの身なりの綺麗なインテリ風のカップル達がテラス席で料理とワインを楽しんでいます。
私は特にお腹も空いていなかったのでカフェで時間潰し。
右側のKonditorkugelを一つ買って食べる。甘い。美味しい。
内装がピンクで可愛い。
日が沈んで再び歌劇場へ。
「本日(Heute)、魔笛(Die Zauberflöte)」と演目が垂れ幕に書かれています。
1791年12月にモーツアルトが亡くなる直前、生涯最後に作ったオペラ魔笛。
「なんと美しい絵姿」、「あぁ、恐れなくてもよいのです、若者よ」、「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え(夜の女王のアリア)」、「パパパの二重唱」など、誰でも聞いたことがあるような、これぞオペラといわれる有名な歌が多数出てくるのもこの作品の特徴です。
中に入っていきます。
バルコニーには既に大勢の人が。
入り口ではチケット確認があります。
オンライン予約確定時に送られてきた電子チケット↓をタブレット端末(画面は明るく設定しておくとスキャンしやすい)で表示するか、A4用紙に印刷して見せます。
この日はラッキーなことに、席に余裕があるとかで、一番安い3階席が無料で2階席に交換してくれるとのことでした。
そこでもらえた席替えチケット(Umplatzierungskarte)がこちら。ラッキー!
2. Rang Seite links:二階の(舞台に向かって)左側
Reihe 2:二列目
Platz 115 :席のシート番号115
とチケットに書いています。
中に入って席を目指します。
チケットを見せた時に席がどの辺りにあるかだいたい教えてくれて、座席近くの入り口でも再度親切に教えてくれるのでドイツ語がわからなくても大丈夫です。
鞄やコートなどハンドバック以上の荷物がある場合は地階のクロークに預けます。
オペラハウスにはどこにも一か所以上バーがあり、演目の途中休憩には多くの人がグラス一杯のワインやゼクト(ドイツで飲まれる炭酸入りワイン。シャンパンみたいなもの)を求めて列を作ります。
バルコニー前のテーブルにはすでにグラスが並ぶ。
バルコニーは夕涼みで丁度いい風が吹いていました。
バルコニーから見下ろすと、先ほどの屋台はまだまだ営業中。
キャストはこんな感じです。
舞台横の上階席は舞台上と舞台下の楽器奏者の両方が見られるのでお得!
中央で四角く大きく光っているのが指揮者の譜面台です。
だんだんに人が入ってきます。
天井はこんな感じ。
楽団員も席について、指揮者が入場してお辞儀をして拍手をして明かりが落ちたらオペラの始まり。
音楽が始まります。
モーツアルトの音楽は本当に音の一つ一つが遊んでいるようで聞いているだけで楽しくなります。
CDやMP3ファイルもいいのですが、やはり生演奏は迫力とか、耳以外から受ける感覚が全て心地いいです。
どうでもいい付帯情報として、ホルン奏者に一人エキゾチックなイケメンがいました。
途中休憩。
人々はワイン片手に広間やバルコニーで会話を楽しみます。
よって客席はこの通りのガラン堂。
楽器奏者ももちろん休憩中です。
私は一人でオペラを見に来たら、休憩時間は楽器をよく見に行きます。
昔トランペットを吹いていたこともあり、プロの楽器や楽譜を見るのは楽しいのです。
暗闇に浮かび上がる譜面台。オーボエやファゴット、フルート、ピッコロなどの木管楽器が見えます。
ホルン
チェロとトランペット
舞台から見た客席。
指揮者台。予備のタクトがある。暗闇で落としたら大変ですもんね。
ブザーがなる前に席に戻ります。
ちょっとだけオペラの感想を。
前半のMVPはタミーノ、後半のMVPは夜の女王だったと思います。
歌舞伎もそうですが、映画やドラマといった録画媒体と違い、役者と観客の相互作用のある舞台では、超人的な歌唱力だけでなく空気をピタリと捉えて操るような能力、カリスマ性とでも言うのでしょうか、音楽もピッタリハマってて圧倒的に場を支配した本当に素晴らしいパフォーマンスでした。
パパゲーノ(鳥男)のコミカルな演技や衣装も良かった。
一方で、演出家の趣味?なのか、3人のレディはやや現代的過ぎるしエロすぎ(ドン・ジョバンニほどではなかったけど)、アジア人女性歌手(韓国系っぽい)が下着だけの格好になる演出もあるので内心「知り合いと来なくて良かった~」と思ってました。
終演際の挨拶ではパミーナ役のオペラ歌手に拍手が大きかったようです。私には夜の女王が圧倒的だったように思えました。
次の日に二の腕が筋肉痛になり、手のひらの感覚が薄れるまでたくさん拍手しました。
帰りは電車の時間に余裕があるのでハノーファーの夜道をぶらぶら歩きました。
喉が渇いたので帰りの電車の待ち時間でROSSMANNで飲み物を購入。
缶の方はドイツのおじさんが何の迷いも無く買っていたので「そんなに美味しいのかな」と思ってつられて買ったらジュースではなく、アルコール度10%の安いロゼでした。
でもまぁ、程よく酔っていい気分でした。
駅からタクシーを拾いました。
運転手がお喋りな爺さんで、Kawasakiのバイクが欲しいとかツーリングしたいとか言ってました。いい気分でした。
という訳で、ドイツの夜はオペラでしょ!
*1: