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NHK制作のドキュメンタリー世紀を刻んだ歌「ボヘミアン・ラプソディ殺人事件」の内容と感想

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 NHK制作で2002年に放送されたドキュメンタリー作品の「ボヘミアンラプソディ殺人事件」が再放送されていたので視聴しました。概要や感想をレポートします。

 

基本情報

Queen最大のヒット曲の「ボヘミアンラプソディ」の歌詞が「ママ、たったさっき人を殺したんだ」で始まる「殺人事件」に迫るという内容で話は進みます。

 

映画「ボヘミアンラプソディ」の大ヒットを受けて、2018年の12月24日に同じくNHKで再放送されました。 

 

出演

西田尚美    捜査官役。クイーンを知らない。

キリ・パラモア アシスタント捜査官役。

黒田あゆみ   語り 

インタビュー出演 デーモン閣下、サンプラザ中野

制作

構成演出 長嶋甲兵

制作統括 増子明洋、小口比日菜子

75分、日本語。

 

ブライアン・メイやロジャー・テイラーといった現役のクイーンのメンバーへのインタビューはありませんでした。

 

あらすじ

「世紀を刻んだ歌」シリーズの一本として制作された「ボヘミアン・ラプソディ殺人事件」。イギリスのロックバンド、クイーンの人気を不動のものとした名曲「ボヘミアン・ラプソディ」の成立に潜んだ謎を検証した。全員が高い知性を備えていたクイーンのメンバー、180ものトラックを駆使した多重録音、中心メンバーのフレディ・マーキュリーの生涯などを、2人の“捜査官”が探るストーリー展開で解きほぐしていく。

NHKドキュメンタリー - 世紀を刻んだ歌「ボヘミアン・ラプソディ殺人事件」

 

NHK特有の、Queenファンやタレント・女優といった素人の小芝居が多々挟み込まれ、ボヘミアンラプソディー殺人事件という架空の殺人事件の謎に迫る、という内容です。

 

内容と感想

小芝居に始まり小芝居に終わる

まず冒頭からファンやら市民やら学童たちがボヘミアンラプソディの音楽に合わせをしながら、やらされてる感満載の口パクを披露するという、正直見てるこっちが恥ずかしくなる演出で始まり、そして終わります。

 

NHKが小芝居を挟むのは、制作当時の2002年は日本での知名度は今ほどは高くなかったから、導入を付ける必要があったからだと思われます。

 

クイーンの日本での二次ブームは、2004年の木村拓哉主演のドラマ「プライド」に「I was born to love you」がメインテーマ曲として採用されてからなので二年後です。

 

日本オリジナル版ベストアルバムのJewelsは180万枚のヒットだとか。

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⇩ちなみにQUEEN公式チャンネル動画の開始画像は日本語のシングルジャケット写真です。

高校の英語の先生がラジカセでこの歌を授業中にかけてこじ付けみたいな文法解説してました。Every single dayのsingleは強調の副詞、とかナントカ。

 

と、導入的には必要だったのはわかっていてもやっぱりこっぱずかしくなる演出や小芝居の数々よ。NHKだから。

 

イギリスのドキュメンタリーFreddie Mercury Story - フレディーマーキュリーストーリー - QUEENは女優タレントによる小芝居一切挟まず、動いて喋ってるフレディや大親友のメアリーやフレディの妹、母、友人のデザイナー二人やインド寄宿校の当時の同級生や校長、ザンジバルの写真屋のインタビューと当時の動画をふんだんに使ったもので見応えがありました。 

 

超インテリバンドのQueen

NHKらしいといえばそうですし、事実だけどちょっと笑っちゃう紹介の仕方です。

 

ブライアン・メイはインペリアル大学院で赤外線天文学を研究したインテリで、フレディの死後は研究を再開して博士号も取得しています。

 

ジョン・ディーコンはロンドン大学で電子工学を専攻し主席で卒業し、名誉学位を取得しています。映画の中ではフレディには覚えてもらえていませんでしたが(笑)。

 

ロジャー・テイラーはロンドン医科大学で歯学を専攻した後にインペリアル大学で生物学を専攻し、フレディ・マーキュリーはイラストレーションとデザインの学位を取得しました。

 

うん、確かに超インテリ(笑)。

 

Queenの前身のバンド「スマイル(~1970年)」のボーカルでフレディの大学の同級生であり友人のティム・スタッフェルさんは、母校のロンドンの旧イーリング美術大学(現テムズ・バレイ大学)を訪れて色々と語ってくれました。

 

「僕が辞めてよかった」とも。彼は色んなドキュメンタリーでそう言ってます。

 

1970年代

1971年にはジョン・ディーコンが加わり四人のクイーンが揃いました。

 

1970年代初期はビートルズが解散後の後継者のバンドが求められていた時代で、その中にQueen(フレディ発案)と名付けた彼らは「自分たちがナンバーワンになる」という意思表示だった、とロック音楽評論家 ポール・ガンバチーニさん。でも最初はイギリス音楽界には受け入れられなかったようです。

 

クイーンは1975年4月に日本初来日を果たしましたが、その時はビートルズ以来とも言われる熱狂的な支持を受けました。

 

サンプラザ中野のペンパルもクイーンファンだったらしいです。そしてクイーンは日本びいきになたとか。

 

「手をとりあって」という日本語の歌詞の歌も世界版のレコードで発表しました。

映画でも着物や焼き物、金閣寺のお札など日本のものが出てきて話題になりました。

 

多重録音180トラック

サンプラザ中野さんが多重録音について解説し、さすがNHK、どんなコネを使ったのか「ボヘミアンラプソディ」のオリジナルのマスターテープを入手し、当時の録音アシスタントがレコーディングスタジオで解説していました。

 

当時は24トラックだったのをクイーンは180トラックの多重録音を行いました。

 

ボヘミアンラプソディーのミュージックビデオ創作裏話

ボヘミアンラプソディ殺人事件にもNHKオリジナルの内容で一番興味深かったのはこの「ボヘミアンラプソディ」のミュージックビデオ創作の裏話です。

 

これは外国のドキュメンタリーでは見たことがありませんでした。

 

これはもともとプロモーションビデオというよりも、テレビの音楽番組に出演して全編演奏できないので(特にオペラの部分を演奏するのは難しい)、代わりにこのビデオを流してくれ、という目的で制作されたそう。

 

そして驚くのはその製作過程。

 

当時のカメラマンとカメラアシスタントによると、今日までYouTubeで再生回数が8億回に迫るこのミュージックビデオは、なんと撮影時間は夕方の5時にスタジオ入りして10時には終了という強行スケジュールの中、スナックをつまみながら行われたそう。

 

というのも当時のイギリスは労働組合が強く、30分の延長にも交渉が必要だったそう。

 

オペラ部分でメンバーの顔がエコーで連写されたり万華鏡のように増えるのは合成では無くマニュアルで作ったというのも面白いと思いました。

 

ボヘミアンラプソディーがイギリスで大ヒットした背景

NHKらしくて面白かったのは、この曲がヒットした当時のイギリスの世相について説明を加えていたところです。

 

当時はオイルショックや外国産の安い輸入品に押されて次々と産業が潰れ、高い失業率や急なインフレで経済状況も悪く、イギリス病とも言われる暗黒期でした。

 

ガソリンは配給制、電気は週に3日は止まっていたそうです。

 

そんな暗い世の中と逆行し、文化面では軽薄で明るいものが消費されていました。

 

そんな中、1975年、この暗くてファンタジー要素があって現実逃避もできちゃうボヘミアンラプソディーが発表されました。

 

曲の奇抜さとビデオで当時の学校やパブの話題は持ち切りだったそうです。

 

そしてボヘミアンラプソディは全英レコード史上初の9週連続1位という大ヒット作となりました。

 

さらに1992年のコメディ映画「ウェインズ・ワールド(Wayne's World)」というアメリカのコメディ映画にもボヘミアンラプソディが使用され、若年層のファンを獲得しました。

 

オペラのシーンとヘッドバンキングをするシーンは話題に。

アメリカではQueenのアルバム売り上げの半分はフレディ・マーキュリーの死後といいます。

 

主演のマイクマイヤーズは別のドキュメンタリーで、Queenの名曲をコメディで使って怒られるかと思っていたら後日Queenから「僕たちの曲を使ってくれてどうもありがとう。」という手紙を受け取ったと話していました。

マイクマイヤーズはボヘミアンラプソディにもレイフォスター役で出演しました。

 

ボヘミアン・ラプソディは、1999年に60万人のイギリス人によって選ばれた過去1000年のベストソングでHey, JudeやImagineを抑えて第一位となったそうです。

 

で、これまたNHKらしいのが、クイーンオタク(?)のリバプール大学芸術学部大学院生のルース・ドックレイさんの卒業論文「Queen Complex Songs & Anthems」を本人出演で取り上げて取り上げていました。

 

曰く、ボヘミアンラプソディは「The Everlasting Rock Anthem」、永遠のロック国歌だと。

 

いくらなんでも学部の卒業論文は無いんじゃないの、と思いましたが、たぶん彼女から制作スタッフが色々教わったんだろうなと想像。

 

さらには若いミュージシャンのカバー曲という非常にどうでもいい内容まで。まぁNHKらしい。

 

ボヘミアンラプソディーのスカラムーシュ、ビスミラって誰?

 

他にも劇作家のところに行って歌詞の解釈を聞いたりしてました。曰く、シェイクスピアの「ハムレット」や「マクベス」の要素があったり(そりゃ同じ言語だし。。。)、哲学的な問いがあるそうです。

 

(そしてさすがNHK!ここでもすかさず小芝居を突っ込みます!)

 

まぁインテリバンドだとそういう目でも見られるわけですな。

 

そして番組はフレディ・マーキュリーのお母さんのところに行って曲を聞かせて泣いたところにコメントを取るという。ちょっとお母さんが可哀想な気も。

 

お母さん曰く、医者や弁護士の多い家柄だからフレディもそうなると思ってたけど、フレディは昔から音楽に興味を持っていた子供だったそうな。

 

デーモン閣下やフレディの友達の解釈も登場します。

 

ゾロアスター教の学者らしき人物がボヘミアンラプソディの歌詞を解説している部分もまた、興味深かったです。

 

スカラムーシュはイタリア喜劇の登場人物で、人間の葛藤を表し、

ファンタンゴはスペインの踊りで抑圧された感情の解放、

Let me goに対するビスミラ、はイスラム教の神様の名前ですが、フレディ・マーキュリーの厳しいかった学校の先生の名前だったそうです。

その他トリビア満載で、面白かったです。

 

 

しかしその後、NHKはタイトルにありながら歌詞に全く登場していない「ボヘミアン」の部分を自説というか妄想を延々と俳優に喋らせるのですが、ちょっと違和感がありました。

 

というのも、別のドキュメンタリーでは「ボヘミアン」は放浪とか自由でカッコイイイメージがあったから付けた、程度で特に深い意味は無い、と言われています。

 

さらに他のドキュメンタリーではブライアン・メイが「例え知ってても言わない。

 

フレディはずっと音楽理論と戦っていて、曲の意味を言うのは曲を殺すことになるから」と言っていました。

 

で、NHKのドキュメンタリーも女優が小芝居をして「1975年のイギリスは2002年の日本とよく似ている」とかいうよくわからない話をして(確かに日本は不景気でしたが。こうでもしなきゃ番組制作の予算が通らなかったのかな?)「この謎を解くのはあなたです」で終わりました。

 

で、冒頭と同様に例のロンドン市民や世界のクイーンによる口パクパフォーマンス。

 

完。

 

NHKらしい市民目線のダサさと小芝居が満載なものの、意外なところでオリジナル(ミュージックビデオを撮影したスタッフやアシスタント、ゾロアスター教の学者は海外のドキュメンタリーでは見ない)情報があったり、「映像の世紀」のような歴史的な映像をちゃんと使える力量だったりでいい意味でのNHKらしさがあってて全体として面白い番組だと思いました。